近くの住宅街にひっそりとジャズ喫茶があって、ときどきコーヒーやビールを飲みながら置いてある『週刊文春』などをむさぼり読んでいるのですが、先日初めて帰りがけにマスターに声をかけられました。
「ジャズはお好きですか」
ここで「嫌いです」と答えたらたいした人物ということになりますが、それほどでもないオレなので「ええ、数年前から聞き始めたばかりですが、中古レコード屋の500円コーナーとかでアナログ盤を買って聞いています」と返事。
するとマスター「ちょっと待っていてください」とレコード棚のほうへ行って戻ると、手には同じLPが2枚。
「トランペットは聞きますか」
「ええ、でも持っているのはマイルス・デイヴィスとチェット・ベイカーくらいで」
「じゃあよかった。これ、ブルー・ミッチェルって人のレコードで、私のすごく好きな曲が入っているんですよ。2枚あるんで、1枚差し上げます。あっ、こっちの盤はいい音のほうなんで、お店に置いといて(笑)」
びっくりしました。こんな店が、2013年の今もあるんですね。で、このアルバムが素晴らしかった。非常にマイルドな口当たりでありながらコクがあるというか、つまり初心者には聞きやすく、でも味わい深い。トランペットだけでなく、ピアノもベースもいい音しています。
そして先日、仕事で北陸に行ったので、えびせんを買って持って行ったところ「かえってすみません、お土産なんかいただいちゃって。あの、お客さん、難しいジャズなんかも聞きます? エリック・ドルフィーとか」「あっ、いや、その、聞きますけど、こ、この前いただいたブルー・ミッチェル、とってもよかったですよ! 別のCDも買っちゃいました!」。
またまた何かくれそうな勢いなので、あわてて阻止。阻止する意味もよくわかりませんが、そんな、何枚ももらっちゃねえ。まあ「お客さん、真空管のアンプなんか聞きます? うちにマッキントッシュが2台あるんで、1台差し上げます」などと言われたら断れるかどうか、人間としての真価が問われることになりそうですが(←くれるかよ!)。